失敗しない遺言書の書き方 ー失敗例3選をイラストを交えて解説!ー
この記事の編集者

司法書士 小牟田 毅
司法書士法人COM事務所 代表司法書士
福岡県司法書士会所属
COM事務所は、遺言書の作成や家族信託の組成、相続後の手続き支援など、相続に関する各サポートに注力しております。相続でお困りのことがありましたらお電話いただくか、当Webサイトの「お問い合わせ / ご連絡」ページからご連絡ください。ご相談前に、料金の有無を必ずお伝えさせていただいております。
この記事のアウトライン
- 遺言書は厳格な要式が求められます。「書いておけば安心」ではなく、書き方によって無効になったり、かえってトラブルの火種になることがあります。
- 本記事では、実務でみられた遺言書の失敗例を3つ取り上げ、正しい書き方の具体例とあわせて解説します。
- 特に3つ目の「私道(前面道路)の記載漏れ」は、遺言者本人が気づいていないことが多い、要注意の落とし穴です。
遺言書は「書き直せないあと」に失敗が発覚することが多い
遺言書をのこすことで、財産を誰にどう分けるかを生前に決めておくことができます。遺言書は現在「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。(過去の記事はこちら)。
しかし、遺言書の書き方による失敗は、遺言者が亡くなった後に効力が生じたあと、つまりもう書き直せないあとに発覚することが多いといえます。
当事務所が相続登記や相続手続きの実務で実際によく目にする失敗例を、3つご紹介します。
失敗例その1:書き間違いを「二重線+訂正印や修正テープ」で修正

ふだん書類などを書くときに、書き損じたらその箇所に二重線を引いて訂正印を押したり、修正テープや修正液で消して修正することがあると思います。
しかし、民法では、自筆証書遺言を書いていて文字を間違えたときに同じような修正方法をしても、効力を生じないとされています。
自筆証書遺言の訂正(加除その他の変更)の方法は、民法968条3項で厳格に定められています。
民法968条
(1項及び2項は省略)
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
条文の表現は最小限のことしか書かれてなく分かりづらいのですが、分解補足すると以下になります。
- 訂正箇所に押印する(訂正後の文言を訂正箇所の上や挿入で書く)。
- (欄外などに)「本遺言書◯行目中、◯字削除◯字加入」のように変更した旨を記載する。
- 2)の記載に署名する。
これらの手順をすべて踏まなければ、訂正はなかったものと扱われる可能性があります。修正テープでの訂正はもちろん方式を満たしません。訂正が効力を生じない結果、訂正前の記載のまま解釈されたり、元の文字が読み取れない場合には遺言の内容自体に疑義が生じることもあります。
誤った修正、正しい修正の具体例
| 誤った修正 | 正しい修正 |
| 遺言書 1.私は、私の所有する全ての不動産及び預貯金を、妻の花子に相続させる。 令和8年7月24日 住所:福岡市中央区渡辺通5丁目10番18号 氏名:法務太郎(印) ※「不動産及び預貯金」を二重線で消して、上から訂正印。上に「全ての財産」と記載※フォントは自筆調のものを使用※印鑑は同じイラストを使用※Canvaで作成し、画像を貼ってください | 遺言書 1.私は、私の所有する全ての不動産及び預貯金を、妻の花子に相続させる。 令和8年7月24日 住所:福岡市中央区渡辺通5丁目10番18号 氏名:法務太郎(印) 本遺言書1中、8字削除5字加入 法務太郎 ※「不動産及び預貯金」を二重線で消して、上から訂正印。上に「全ての財産」と記載※フォントは自筆調のものを使用※印鑑は同じイラストを使用※Canvaで作成し、画像を貼ってください |
もっとも、実務的には訂正方式に少しでも不安があれば、最初から書き直すのが一番安全です。自筆証書遺言は何度でも書き直すことができます。
失敗例その2:「自宅は長男に」「福岡市中央区◯町1丁目1番1号(住所)の土地は長女に」と書いた

一見、何の問題もなさそうな書き方に見えますが、この2つはどちらも実務ではよくある失敗例です。
「自宅」という表現の問題 「自宅」とはあくまで遺言者目線の概念であり、法務局の登記官など、第三者からみたらどこの不動産のことなのか特定できないことがあります。遺産分割協議の審判では、他の証拠などと組み合わせて自宅不動産を特定する方法もありえますが、そもそも第三者からみて不動産を特定できるような表現にすることが重要です。
「住所」による指定の問題 普段使っている住所(住居表示)と、登記上の「地番」「家屋番号」は別物で、住所で書かれた不動産はどこまで含むのか(隣地の別の筆の土地や前面道路など)という問題が生じます。不動産を特定できず、そのままでは相続登記をすすめられないおそれがあります。
解釈の余地があってはいけないのが遺言書です。遺言書は親族だけでなく、法務局や金融機関といった第三者が内容を確認します。誰が読んでも一つの結論にしかならない書き方が必要です。
正しい書き方の具体例
不動産は、法務局で取得できる登記事項証明書(登記簿謄本)の記載どおりに特定します。
第1条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を、長男一郎(昭和◯年◯月◯日生)に相続させる。
【土地】
所 在 福岡市◯◯区◯◯一丁目
地 番 2番3
地 目 宅地
地 積 165.28㎡
【建物】
所 在 福岡市◯◯区◯◯一丁目2番地3
家屋番号 2番3
種 類 居宅
構 造 木造瓦葺2階建
床面積 1階 66.24㎡ 2階 52.17㎡
なお、財産目録は手書きでなくてもよいとされているため(民法968条2項)、登記事項証明書のコピーを財産目録として添付する方法もあります(その場合は各ページへの署名押印が必要です)。
失敗例その3:前面道路の記載漏れ -遺言者本人も気づいていない落とし穴-
そして3つ目が、実務で特に注意していただきたい「前面道路(私道)の記載漏れ」です。
例えば広い土地を分筆して分譲した場合などは、自宅の前面道路が公道ではなく私道になることがあり、遺言者がその前面道路の共有持分(例えば6分の1など)を持っているケースはよくあります。しかも厄介なことに、相続人はおろか、遺言者本人もそのことを把握していないことがあります。
するとどういうことが起きるのか、エフさんの事例でみてみましょう。
① エフさんの遺言
エフさんは、自宅の土地建物のほかに、賃貸アパート1棟を所有していました。エフさんは「自宅は同居している長男に、アパートは長女に」と考え、次のような趣旨の自筆証書遺言を作成しました。
「自宅の土地建物は長男に相続させる。その他の不動産はすべて長女に相続させる。」
(※不動産の特定は失敗例その2のとおり登記事項証明書の記載どおりに行ったものとします)

② 司法書士へ相続登記の依頼
それから数年後、エフさんは亡くなりました。長男はエフさんの遺言書を持って、自身の取得するエフさん自宅の相続登記を司法書士に依頼しました。その後、司法書士が公図や名寄帳を役所から取得して確認したあと、おずおずとこう告げました。
「実は…ご自宅の前の道路は私道で、エフさんが6分の1の共有持分をお持ちでした。遺言書の書き方ですと、この私道持分は『その他の不動産』として、長女さんが相続することになります…。」

③ エフさん亡きあと
自宅を受け継いだのは長男なのに、自宅の前の私有地の道路の持分は長女のもの。この状態では、長男が将来自宅を建て替えたり売却したりする際に、道路持分について長女の協力が必要になる場面が出てきます。兄妹の仲が良いうちはまだしも、関係が悪化していれば大きなトラブルの火種です。

④ どうすれば防げたのか
エフさんの遺言に、次のように私道持分を明記しておけば問題は起きませんでした。
第1条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を、長男◯◯に相続させる。
【土地】(自宅敷地の表示・略)
【建物】(自宅建物の表示・略)
【土地】 ←私道の共有持分
所 在 福岡市◯◯区◯◯一丁目
地 番 2番10
地 目 公衆用道路
地 積 99.17㎡
(持分6分の1)
⑤ 見落としを防ぐには名寄せや所有不動産記録証明書で確認を
自分がどんな不動産を持っているかを確認するには、市区町村(東京23区は都税事務所)で取得できる名寄帳の写しを確認するのが有効です。私道(公衆用道路)は固定資産税が非課税とされていることが多く、毎年受け取る納税通知書には記載されないことがあるため、遺言者本人も存在を忘れてしまいがちです。名寄帳の写しを請求する際には、非課税の物件も含めて記載してもらうのもポイントです。
また、令和8年2月2日からは、法務局で「所有不動産記録証明書」を取得できるようになりました。これは、ある人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を、法務局が全国分まとめて検索し、一覧にして証明してくれる制度です。名寄帳が市区町村ごとの請求であるのに対し、こちらは一度の請求で全国の不動産を確認できるのが大きな利点で、生前は登記名義人本人が、相続開始後は相続人が請求できます(司法書士などの代理人による請求も可能です)。
ただし、この証明書は登記記録上の氏名・住所をもとに検索されるため、引っ越し後に住所変更登記をしていない不動産や、旧姓のまま登記されている不動産などは、検索から漏れてしまう可能性があります。名寄帳の写しと所有不動産記録証明書を併用して確認すると安心です。
あわせて、法務局で自宅周辺の公図を確認し、前面道路の地番の登記情報を調べれば、私道持分の有無をより確実に把握できます。
編集者より一言 ーEditor’s Wordsー
遺言書は、相続争いを防ぐ趣旨で厳格な要件を求められます。「財産を漏れなく把握する」「解釈の余地なく特定する」「方式を正確に守る」の3つが、想いを確実に届けるための基本です。

