民法の遺留分の規定をイラストで分かりやすく解説!(後編)
この記事の編集者

司法書士 小牟田 毅
司法書士法人COM事務所 代表司法書士
福岡県司法書士会所属
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遺留分のアウトライン
- 遺留分は、法定相続人に最低限取得された遺産の取得分です。
- 遺贈や受贈を受けた人が複数の場合、遺留分を請求する順序は決まっています。
- 遺留分の消滅時効はとても短いです。
- 遺留分は、相続開始前にも放棄することができますが、家庭裁判所の介入が必要です。
遺留分の負担の順序などをイラストを使って解説!
遺留分は、民法1042条から1049条までの計8条に定めがある、法定相続人に最低限取得された遺産の取得分です。
今回は、前編、中編に続く最終回の後編になります。ここでは、遺留分に関する負担の順序や請求期間を解説します。
(前編の記事はこちら)(中編の記事はこちら)
受遺者や受贈者が複数の場合、どのような順序で遺留分を負担するのか?
(受遺者又は受贈者の負担額)
民法1047条
1 受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第1042条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。
一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。
二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。
2 第904条、第1043条第2項及び第1045条の規定は、前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。
3 前条第1項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。
4 受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。
5 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第1項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害している受遺者(遺言によって財産を取得した人のこと)や受贈者(生前に贈与を受けたり、死因贈与を受けた人のこと)に対し遺留分侵害額の請求ができますが、ここでは受遺者や受贈者が複数いる場合、どのような順序で請求できるのか、などが定められています。
では、このことをイラストでみていきましょう。

※ ①と②は亡くなった順番です
エフさんが亡くなり、相続人は兄と妹の2名です。
2人の遺留分は、それぞれ1 / 4(子全体の遺留分:1 / 2 × 各法定相続分:1 /2 )です。
しかしエフさんは兄に唯一の財産の自宅不動産を相続させるという遺言を残していました。

しかし、実はエフさんは亡くなる半年前に、姪に400万円の贈与をしていました。
この場合、遺留分算定の基礎財産は自宅不動産1600万円と、姪への贈与を合わせて2000万円になります(民法1043条)。
この2000万円に妹の遺留分の割合を掛けて、妹の遺留分は500万円になります。

兄も姪も、妹の遺留分500万円を侵害してそうですが、この場合妹が請求できるのは兄だけです。受遺者(兄)と受贈者(姪)がいる場合、受遺者の方が遺留分を先に負担する、というルールがあるからです(民法1047条1項1号)。
なお、兄は自宅不動産しか相続していませんが、妹は金銭で兄に500万円請求できます(民法1046条1項)。

ただ、遺留分を請求される側の無資力は、遺留分権利者が負担するというルールがあります(民法1047条4項)。
つまり、仮に兄が相続した自宅不動産を借金返済のために売却し、その結果、兄が無一文になれば、妹は兄に遺留分を請求できなくなるだけでなく、受贈者の姪にも請求することはできません。
遺留分の時効はとても短い
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
民法1048条
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。
遺留分を請求できる期間は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ってから1年間で時効消滅します(ただし、遺留分を請求される側が時効を主張(援用)して初めて遺留分は消滅するのであり、1年経過したら当然に消滅するわけではありません)。1年という期間は時効期間としてはとても短く、葬儀や相続手続きをしていたらあっという間に遺留分の時効は完成してしまいます。
これに対し、たとえ遺留分があることを知らなくても、相続開始から10年間経過したら、遺留分は当然に(何もしなくても、という意味です)消滅します。この10年間の期間は「除斥期間」といって、時間の経過とともに遺留分が請求できなくなることが確定します。
遺留分を請求する側もされる側も、遺留分を請求できる期間を意識することが重要です。
相続開始前に遺留分を放棄しても相続権は失わない
(遺留分の放棄)
民法1049条
1 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
遺留分は、相続開始前には家庭裁判所の許可を受ければ、放棄することができます。逆にいえば、相続開始前の遺留分の放棄は、家庭裁判所の介入が無ければ放棄することはできません。なお、相続開始後の遺留分放棄は自由にすることができると解されます。
(相続開始前後にかかわらず)遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分が増加するわけではありません。遺留分は相続のように故人の財産を承継し共有する権利ではなく、個々の法定相続人の固有の権利であるからです。
このため、相続開始前に遺留分を放棄しても相続権は失いません。先の例では妹が相続開始前に遺留分を放棄したからといって、エフさんの兄に対する遺言がなければ、妹はエフさんの死後に法定相続分による財産を取得するのです。

編集者より
ーEditor’s Wordsー
- 遺留分を知ることは、遺言書の準備などの生前の相続対策をする際に欠かせません。
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