相続放棄の失敗例をイラストで解説!
この記事の編集者

司法書士 小牟田 毅
司法書士法人COM事務所 代表司法書士
福岡県司法書士会所属
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相続放棄のアウトライン
- 相続放棄は、家庭裁判所で行う手続きです。
- 相続放棄を行うと、相続放棄をした人は初めから相続人ではなかったものとして扱われます。
- 亡くなった人(被相続人)の同順位の相続人(長男と二男など)が一緒に相続放棄をすると、次順位の相続人に相続権が移動しますので、注意が必要です。
相続放棄とは?
相続放棄とは、亡くなった方(被相続人)の財産について、「一切相続しません」という意思表示を家庭裁判所に届け出て、最初から相続人でなかったことにする制度です。
「財産」は、「プラスの財産」と「マイナスの財産」があります。
- 預貯金
- 不動産
- 有価証券(株式、投資信託など)
- 自動車、貴金属、家具など
- 消費者金融や知人からの借金
- 未払いの税金
- 滞納した家賃
- 未払いの入院費
相続放棄は相続人の選択肢
相続放棄は、民法で規定された制度であり、家庭裁判所に申述する(相続放棄申述書を提出し、受理される)ことによって行います。
「相続放棄」というと、「親を引き継がないなんて冷たい」と考えることがあるかもしれませんが、マイナスの財産がプラスの財産を上回るのであれば、相続放棄を検討してもよいと思います。相続放棄を行うのは相続人の選択肢であり、引き継ぐも放棄するも相続人の権利であるからです。
なお、相続放棄の申述は「自己のために相続があったことを知ったときから3ヶ月以内」(この3ヶ月を「熟慮期間」といいます)にする必要があります。
「はじめから相続人ではなかった」ことになる、とは?
相続放棄の申述が家庭裁判所で受理されると、はじめから相続人ではなかったことになります。例えば相続人が長男・次男・三男の3人だった場合、長男が相続放棄をすると、長男ははじめから相続人ではなかったことになります。つまり、この相続については、相続人ははじめから次男と三男の子2名だった、として扱われます。
その結果、その長男が相続するはずだった相続分は他の相続人(次男・三男)に均等に6分の1(3分の1÷2)ずつ相続されます。
少し気をつけなければいけない点は、相続放棄をした相続分は他の相続人に任意に振り分けることができない、ということです。例えば、被相続人の相続人が妻、長男、次男の3名とします。その各法定相続分は妻2分の1、長男次男は各4分の1です。

この時、長男が「自分の相続分を母と弟に均等に分けてあげたい」と思って相続放棄をしても、その思いは実現しません。
この場合、次男の相続分のみが増えて妻2分の1、次男2分の1になります。
長男は相続放棄の効果で「はじめから相続人ではなかったことになる」結果、被相続人の相続人は配偶者である妻と子である次男1名のみとみなされるからです(法定相続分は配偶者2分の1、子全体で2分の1)。

相続放棄を行う際には、相続放棄によるはじめから相続人ではなかったとみなされる効果をあらかじめ考えておくことが、予期せぬトラブルが起こるのを防ぐポイントと言えます。
相続放棄をしても戸籍には記載されない
相続放棄をしても、親子やきょうだいだった事実が無くなるわけではありません。相続放棄はあくまでも相続財産を承継することの放棄であり、親子やきょうだいだった事実そのものを消滅させるものではないからです。
よって、法定相続人が相続放棄をしてもそのことが戸籍に記載されることはありません。戸籍を見ても相続人が相続放棄をしたかどうかは分からないので、相続登記や相続による預貯金の解約などの手続きでは、親族の戸籍謄本のほか家庭裁判所から取り寄せる相続放棄申述受理証明書で相続放棄があった事実を証明します。
相続放棄は次の順位の相続人に相続権を移動させる
相続放棄をしたら、相続放棄した人が相続するはずだった相続分は、同順位(自分のきょうだいなど)の相続人に相続されます。では、同順位の相続人が全員相続放棄した場合は、相続放棄した人が相続するはずだった相続分はどうなるのでしょうか?
その答えは、次の順位の相続人に相続権が移動するということです。
例えば、被相続人に配偶者と子がいた場合、通常は配偶者と子が相続人(第1順位)になります。
しかし、その子全員が相続放棄をすると、子らの次に相続人になるのは被相続人の父母など直系尊属(第2順位)です。
仮に直系尊属もすべて相続放棄すれば(またはすでに直系尊属が死亡していれば)、次は被相続人のきょうだい(兄弟姉妹)(第3順位)が相続人になります。
このように、先順位の相続人が全員相続放棄をした場合、次順位の相続人へと相続権が移るのが相続のルールです。
このことは、相続放棄をすることは、親族内のトラブルを起こす可能性があることをはらんでいることを意味しています。
例えば、「兄が借金を多くしていて、兄が死亡したので兄の奥さんと子らが相続するかと思っていたら、兄の妻と子がいつの間にか相続放棄していて、弟である自分のところに債権者から催告が来た」状況を考えると、このことが分かりやすいと思います。この場合、兄の妻と子と弟の間でトラブルが起こる可能性があります。
このようなトラブルを防ぐためには、相続放棄を検討する際には、相続放棄の手続き内容だけではなく相続放棄をした結果、次の相続人は誰になるのかを知っておくことが大切です。そのうえで、次順位の相続人にあらかじめ相続放棄の意思を伝えておくことなども必要になると思います。
財産を処分したら相続放棄ができないことも
繰り返しになりますが、相続放棄は、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も全ての財産の承継を拒絶することを意味します。逆に、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も全ての財産の承継を許容することを単純承認といいますが、一定の行為を相続人が行えば、単純承認したとみなされるときがあります。
一定の行為とは、簡単に述べると以下の2つです(民法912条)。
- 相続財産を処分したとき
- 相続財産を隠したり消費したりしたとき
これらの行為を行えば、相続人は単純承認したとみなされるときがあります。
被相続人のプラスの財産とマイナスの財産を調査してマイナス財産がプラス財産を上回る場合は、単純承認とみなされる行為をしないように注意が必要です。
イラストでみる相続放棄の具体例(失敗編)
イラストで相続放棄の具体例をみてみましょう。
具体例を図解 (※押すと閉じます)
例1 ”家財を処分したら「相続した」とみなされた!”
エフさんが亡くなりました
エフさんには数人の債権者から数千万円の多額の負債がありました
エフさんの長男は「親父の借金なんて自分には関係ない」と思い、相続放棄をするつもりでした
しかし、実家にあった家電や家具を「使わないから」とリサイクルショップに売却
数日後、家庭裁判所に相続放棄を申し立てて、受理されました

しかし、その後エフさんの債権者たちは、長男の相続放棄は無効であるという訴訟を起こしました
結果、家財道具を処分した行為が「相続財産を処分した」と裁判所に判断され、
長男の相続放棄は無効になりました
結果、長男は多額の借金も含めてすべてを相続することに・・・

例2 ”家族3人全員で放棄したら…まさかの連絡先に督促が!”
亡くなったエフさんには多額の借金が
エフさんの奥さん・長男・二男の相続人3人で話し合い、「全員で相続放棄しよう」と決断
家庭裁判所に3人同時に相続放棄の手続を行いました

3人全員が放棄したことで、次の順位の相続人=エフさんの兄が法定相続人に。
債権者は資産がありそうなエフさんの兄に「あなたが相続人なので返済してください」と督促
親族間で大きなトラブルに発展してしまいました。

例3 ”財産を奥さんに集中させようとして放棄したら…”
亡くなったエフさんの遺産は預金と自宅
長男と二男は「お袋に全部渡そう」と思い、2人とも相続放棄をしました
これで簡単にエフさんの奥さんが単独で相続できるはず、と思ってましたが…

長男・二男が放棄したことで、法定相続人は奥さんと次順位の相続人であるエフさんの兄に
エフさんの兄は「自分にも法定相続分がある」と主張し、遺産の4分の1に相当する金額の支払いを要求
エフさんの奥さんは自宅に住み続けるつもりです
結局、奥さんはエフさんの預金を全てエフさんの兄に渡さないといけなくなってしまいました

編集者より
ーEditor’s Wordsー
- 相続放棄をすると、相続人を「はじめから相続人ではない」状態になります。親族間でトラブルを起こさないようにするために、相続放棄をした後の状態も想定しておくことが必要な場合もあります。
- また、相続放棄をした相続人は、被相続人の相続について、次順位の相続人たちのやることに法的には口出しすることはできません。
- 相続放棄ができる期間は相続開始を知ってから3ヶ月。死後の整理などをしていたらすぐに期間がやってくるので、相続放棄の可能性がある場合は早めに動きましょう。
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